豆、いろいろあって迷いますよね。うちではまず焙煎度から見てもらうと、選びやすいですよ。
たしかに、名前だけ見ていると少し地図のない展示みたいで。どこから見始めたらいいのか、最初は迷いますね。
そうなんです。だからまずは浅煎りか、中煎りか、深煎りか。そこが入口です。浅煎りは華やかで果物っぽい感じ、中煎りは甘みがあってバランスがいい、深煎りはコクが出て苦味もしっかりしてきます。
最初に全体の明るさを決める感じですね。写真でも、まず露出の方向が決まると、その先が見えやすくなるので。
まさにそんな感じです。今日はすっきりしたいのか、甘みがほしいのか、しっかりしたコクがいいのか。まずそこが分かると選びやすいです。
じゃあ、浅煎りならみんな同じように華やか、というわけでもないんですね。
そうなんです。浅煎りでもかなり違います。アフリカの豆だと、お花みたいな香りとか紅茶っぽさが出やすいですし、南米だと柑橘っぽさややわらかい甘み、アジアだとスパイスっぽさや少し厚みのある感じが出たりします。
同じ明るさの画面でも、色調が違うみたいなものですね。光は軽やかでも、空気の質が違う。
はい、まさに。焙煎度で大きな方向が見えて、そのあと産地で雰囲気が変わってきます。
解説に“精製法”(プロセス)も出てきましたけど、それも見たほうがいいんですか。
見ていくと面白いですね。ウォッシュドだときれいで輪郭のある味になりやすいですし、ナチュラルだと果物っぽいふくらみが出やすいです。アナエロビックだと発酵由来の個性が強く出て、ちょっと印象的な香りになります。
なるほど。素材そのものというより、どこまで手が入っているか、その痕跡も味に残るんですね。版画でも写真でも、技法が表面に出ると急に見え方が変わるので、少し近い感じがします。
すごく近いと思います。だから焙煎度だけで選んでももちろんいいんですけど、少し慣れてくると、産地や精製法を見たときに急に豆が立体的に見えてきます。
豆の名前にも意味があるって書いてありましたよね。あれは産地のラベルみたいなものですか。
そうですね。村の名前だったり、地区名だったり、農園名や品種だったりします。なので名前を見ると、この豆がどこの、どういう背景を持っているかが少し見えてきます。
タイトルというより、作品のキャプションに近いですね。読むと、その一杯の奥にある場所や時間まで少し感じられる。
ほんとうに、そんな感覚です。だから名前を見るのも楽しいんですよ。
コーヒーって、味だけじゃなくて、背景まで読むと急に奥行きが出ますね。
はい。なので、難しく考えなくて大丈夫です。酸味が好きなら浅煎り寄り、甘みと飲みやすさなら中煎り、しっかりしたコクなら深煎り。まずはそこからで十分です。
それなら入りやすいですね。今日は、華やかだけれど、輪郭がきれいなものを飲んでみたいです。
いいですね。それなら浅煎りの中でも、ウォッシュド寄りで、フローラルなタイプか柑橘系のタイプが合いそうです。いくつか近い豆をご案内しますね。
お願いします。こうやって話しながら選ぶと、豆が並んでいるというより、小さな展覧会を見ているみたいで面白いです。
うれしいです。分からないことは、その場で聞いてもらうのがいちばんです。味のことも焙煎のことも、一緒にたどっていけますから。
